【4】総評 |
長野県松本あさひ学園は、長野県諏訪湖健康学園が新築移転し、社会福祉法人長野県社会福祉事業団が指定管理者となっている。
新設後3年目となる現在、県職員の派遣も徐々に減ってきており、今までの実績やノウハウをどのように引き継ぎ、学園の独自色を醸し出していくかを意識している。
長野県の施策の後押しもあり、児童相談所・施設の子どもが通う分校・市町村との連携も盛んで、子どもの正常な育ちにとっては良い環境といえる。
子どもへの聞き取りにおいては、職員への信頼感を挙げる子どもが多数おり、安心して治療・支援を受けているものと思われる。
しかし、学園は周囲を公共機関や各種団体の建造物に完全に囲まれた立地である。
現在、面影の無くなった長野県諏訪湖健康学園ではあるが、地域住民の住居・アパートや民間企業に囲まれ、子どもにとっては日々の生活の中で多様な大人との触れ合いの機会が提供されていたと理解する。
また、子どもだけでなく、職員と住民との触れ合いの場面を見る事によって、子どもの心身の成長に与える効果もあったと思われる。
そして、当時を懐かしむ長期利用者がいる事も事実である。
新築移転によって得たものだけでなく、失ってしまったものを考察することも将来の長野県松本あさひ学園の糧となると思われる。
◇特に評価が高い点
○子どもの育ちの環境
学園には、地域校の分校・大学・大学附属病院・盲学校・地区公民館・交番などが隣接しており、安心と安全が感じられる住環境がある。
医師や専門の心理治療員の配置によって回復を目指した支援が施され、教育の面でも分校との協力体制が整い協働している。
結果として、退所後の見立てがしやすくなって効果を上げたり、事業計画に謳う家族支援も組み入れやすいものとなっている。
子どもへの聞き取りにおいても「話しやすい職員がいる」「プライバシーは守られている」との回答も多く、施設・職員への信頼はできていると思われる。
生きにくさを抱えた子供たちにとってのこの安心感は、治療の場に必要不可欠なものと感心する。
学習支援は分校との協力もさることながら、大学生のボランティアの協力も得ており、大人との触れ合いの機会ともしている。
職員の質の向上のための研修などにも積極的に参加し、内部研修もあり、子どもの支援の情報はパソコンで共有化され、毎日の引き継ぎでも丁寧に行われている。
そして、見通しが立てられる日々のスケジュールが作成され、生活の構造化にも注力している。
子どもを取り巻くこれらの正常な生活環境を基礎として、学園の特色を醸し出す治療・支援が間もなく構築されるものと期待できる長野県松本あさひ学園である。
◇改善が求められる点
○県立施設としての認識
新たに制定された情緒障害児短期治療施設運営指針において、社会的養護は「すべての子どもを社会全体で育む」を基本理念とし、地域支援も施設機能の開放・提供を謳っている。
また、地域へ情緒障害についての情報を発信し、県内の親からの相談を受け付けることに注力することは県立施設本来の役割と考える。
しかし、一般家庭だけでなく入所児童の親にとって、発達障害に対する固定的な誤解が多く存在する事は事実である。
この誤解を解く取り組みについては、センター的機能の発揮として平成27年度より実施を予定しているという。
入所する子どもの正常な発達の再スタートは、マイナスからの出発と理解する。
治療が遅くなればなるほど、マイナス面が深くなり治療を困難にさせる。
自主性の名の下に誤った幼児期を過ごす子どもも増えており、計画の早急な実施が待たれるところである。
多くの親が子どもの障害特性の理解を得ることによって、動機づけも深まり子ども自身の正常な発達を促すことに繋がると考えたい。
また、入所する全ての子どもの地域行事への参加・交流を更に増やすなどして、退所後の子どもの地域での生活に大きな力を発揮することを意識した、新たな取り組みは期待したいものである。
法人が委託運営している施設が県立施設であり、その職員であるという認識を更に共有化するとともに、高める取り組みなどは期待したいところである。
○教わる力を育てる教える環境の充実
情緒障害児短期治療施設においては、自分に都合の良い考え方を持っている子どもにとって、再スタートのためにはある程度のルールは必要と理解する。
嫌な事でも我慢してやり遂げる、周りの指示や助言を理解してそれを素直に受け入れる、そしてそれを実行するといった基本的な子どもの教わる力を育てることが重要と考えたい。
この教わる力を育てる際には大人の存在が重要であり、一人称・二人称・三人称の視点を持った関わりや声掛け、各種発達障害の援助の基本原則を踏まえた個別的で多面的なアプローチが必要である。
つまり、ここに配置された5人の常勤心理士の役割があり、個別の配慮をした治療・支援が期待できると理解する。
しかし、学園では多くのルールにより子どもの気持ちの整理に繋げているが、あまりの多さ・複雑さによって困難な場面に遭遇した際の逃げ方や、自分の言葉を見つけ・語り・伝えるという事が希薄になる恐れもある。
特に、大人の悪意には無防備で指示を何でも受け入れる事は、純真無垢の学園の子ども達の将来にとっては危険な事とも思われる。
最終目的は、自分で自分をコントロールすることができる事を、実感させることである。
そして、相手を思う心が育ち、大人になったといえると考えたい。
障害の告知や特性を教える、動機づけの認識度の把握、セルフコントロールの習熟度など、治療の進展に必要な貴重な機会を摘んでいるようにも感じる。
思考・感情・行動をどのように意識して子どもに対応するのか、そして、子どもの危険性を意識するあまり行動の管理に注力するのではなく、思考・感情を管理・正常化するような意識も更に欲しいところである。
この意識が高まり進むことによって、現状のご褒美と反省日課についても、子どもの心身の成長に合ったものが必要と理解できると考える。
増え続ける学園ルールを減らす取り組みなどは期待したいものである。
○学園内での性教育
学園の職員にはセクシャルハラスメント防止の規定等も整備されている。
また、子ども達が分校の教育の場で性教育を受けている。
そして、学園職員と共にセカンドステップも一緒に行っている。
しかし、子ども同士・子どもから大人・大人から子ども、この3つの対人関係について、生活場面における適切な関係を理解できるよう、子どもだけでなく職員も含めた学園内での性教育は期待したいところである。
子どもと大人、異性との関係など、生活場面を通しての教育は退所後の子どもの人生に大きな効果を発揮すると考える。 |