【4】総評 |
風越寮は子ども達にとって、
・子ども達一人ひとりが、常に自分らしく心地よく生活できる、「暮らしの場」
・お互いの心や体を傷つけることなく、安心して安全に生活できる「ぬくもりと安らぎの場」
・社会自立に必要な人と人との関係作りをはじめとした、社会自立に向けての「体験の場」
を目指すと謳っている。
そして、在籍5年以上の子どもが6割を超えている風越寮では、平均年齢32歳、平均勤続年数9年の職員が、子ども達の最善の利益を守り、自立支援に重きを置いた養育に努めている。
子ども達一人ひとりが「ぬくもりと安らぎ」を実感できるようにとの願いであろう、子どもと職員の会話は静かな口調であり、子どもに意図が伝わるように努力している場面もある。安心できる落ち着いた生活の基本と思う。
しかし、なかには司法関係者に意見を仰ぐ事態もないわけではない。
児童養護施設に求められる難しい課題として、LSW(ライフストーリーワーク)が謳われて久しいが、このデリケートで、慎重に進めなければならない課題に対して、慎重に且つ大胆に、関係機関との連携を持って子どもの将来の為に進めようとしている。
独自に外部から講師を招き、児童相談所や他の施設への参加を呼びかけるなど、社会的養護の児童分野においての関係者全体のレベルアップを図ろうとする取り組みには、頭が下がる思いである。
◇特に評価が高い点
○地域との関係
大人は人生の半分以上の時間をなんらかの仕事をして生きている。
実に多くの時間が仕事によって費やされ、仕事を通して人生が形作られる。
出合った縁者の生き方、仕事の仕方、暮らし方など、関わりのある方から学んだことを、随時自分の生き方に取り入れていく事で、人生の質も向上する。
如何に「その人」に出会うかである。
「学は真似るなり」とはよく言ったものである。
子どもにとっても、それは同じであろう。
地域との交流の多い風越寮では、子ども達は職員と共に各種行事に参加しているので様々な大人との出会い・ふれ合いの機会が多い。
それは、地元企業や地域の夏祭り、神社や公民館などの地域行事、施設連盟の球技大会、などである。
そこでは、地域の大人と子ども・職員が顔馴染みの関係になったり、他の施設の職員・子どもから話を聞く機会もある。
また、地区の公民館と協力して、職員と子どもが地域の子ども達に凧作りなどのあそびの提供をしたり、地区の球技大会等でメンバーが不足するときなどは、退所者に呼びかけて参加することもあるという。
このような実績の継続が、風越寮と地域との絆を深めているのであろう。
結果として、地域の企業・商店等からの理解も得やすくなっており、実習や就職の際の協力を仰ぐことも可能となっている。
さらに、成人となった退所者が集う機会もある。
退所者からの声は風越寮職員だけでなく、子どもにとっても得難い経験となり、安心して社会に出て行ける勇気をも与えている。
風越寮の提供するこれらの多様なふれあいの機会は、子ども達の成長にとって貴重な財産となるであろう。
地域との絆が、益々、強まり、深まり、広がっていくことが期待される事業所である。
◇改善が求められる点
○「待つ」姿勢と働きかけの両立
風越寮では課題の多い多様な障害を抱えた子どもが多く、精神科の嘱託医とも協力して、発達障がい児等に対する支援の方策をめぐらす努力が確認できる。
しかし、子どもの平均在籍年数が5年以上と長く、職員が家事を全て行っている場面も多い。
発達障がい児等の支援においては、躾や社会的ルールなどは今の時期に修正・習得させなくてはならない。年齢に応じての自立への支援や自活訓練、そして、躾などは支援の実践に積極的に取り入れることは必要であろう。
安定して自立した退所後の生活の確保の準備として、調理だけでなく、金銭管理やADL管理などの生活訓練の必要性の認識を職員には更に求めたい。
そして、プログラムの組み立てやその実施も期待したい。
また、子どもが自分で整理・整頓・分類することで、思考力や段取り力が備わり、その力は各方面へ発展する事も理解したい。
風越寮の「ぬくもりと安らぎの場」を目指す実践として、個々の子どもの短所を改善する取り組みのなかでは、自己決定と主体性に注力した「待つ」姿勢が随所に視られるが、長所を延ばす多様な取り組み・働きかけも必要であろう。
子どもがやらされ感を感じない日々の職員の声掛け等による働きかけで、子どもを褒める機会も増すであろう。
さらに、性教育や異性との関係について、不健全な関係を防止する点に重点を置いた話し合いや、現状の検証を深めて発生リスクを抑える方法などを創造したりと、全職員が問題意識を高めて共有化する取り組みなどは期待したいものである。
子ども達が自分の存在を認めて、自分はどうして生まれてきたのか、自分は一人の人間であるという肯定的な考えができるように、ライフストーリーワークの研修を経て取り組みが始まるという。家庭復帰や社会的自立に向けての課題を自覚してクリアするためには「待つ」姿勢だけではなく、子どもの最善の利益に叶った成長過程における各種の働きかけは重要で、両立させなければならないものと考える。
子どもに届く言葉を使い、伝わる言葉での実践となる事を期待したい。
職員アンケートにおいて、多くの職員は明るくチームワークが良く、仕事が楽しいと答えている。
職員一人ひとりの感性やスキルを大切にして、現状の環境に慣れることなく、思考を停止させず、活発な議論を経て実践へとつなげて欲しい。
物事の向上において、「好きなレベル」に勝るのは「楽しいレベル」である。
しかし、楽しい事は楽ではない事も事実であり、今後の新たな取り組みを期待したい。 |