社会的養護施設第三者評価結果 検索

神奈川県立おおいそ学園

【1】第三者評価機関名 (特非)よこはま地域福祉研究センター
【2】種別 児童自立支援施設 定員 男子60名
施設長氏名 中田 和之 所在地 神奈川県
URL
【3】実施調査日 2014年09月17日~2015年02月25日
【4】総評 ≪施設の概要≫
児童自立支援施設「神奈川県立おおいそ学園」は、神奈川県が設置・運営する児童自立支援施設です。明治44年の創設後、平成25年12月に創立110周年を迎えた非常に歴史ある施設で、現在小学生から18歳未満の男児23名が入所しています。JR東海道線「大磯駅」からバスで15分程度の、国道1号線に近い緑豊かな住宅地に位置しています。東京ドーム3.3個分の自然あふれる広大な敷地の中には、野球場やプール、体育館、食堂棟、作業訓練棟などがあり、大磯町立国府小・中学校の生沢分校も併設されています。竹林や畑もあり、子どもたちは学業やスポーツのほか農業にも従事し、学園生活を通じて徐々にたくましさを身につけていきます。生活寮は、それぞれに寮名と同じ木がシンボルマークとして植えられた桂・竹・梅の3寮で、各寮とも左右のウイングに分かれた生活スペースに6~7名の児童が共同生活を行う、小規模ユニットケアを採用しています。また、子どもの安心感とプライバシー確保に配慮し、平成17年には子どもの居室の個室化を図っています。

≪特徴・優れている点≫
【1、子どもの権利と意志尊重に配慮した取り組み】
学園では、子どもの権利と意志を尊重した関わりに努めています。入所にあたっては事前に施設見学を実施し、一定の制約のもとで生活の立てなおしを行うことを説明し、同意を得ることとしています。また、施設の特性上、顕著な問題行動や逸脱行為が発生した際は、施設長の懲戒権として子どもに一部行動制限を実施する場合もありますが、その際にも子どもに理由を説明し、必ず同意を得るようにするなど、子どもの意志や同意に基づく関わりを大切にしています。子どものヒアリングからも、「自分の意見を尊重してもらえる」との回答が複数聞かれています。
また、子どもの意向を反映する取り組みとして、各寮に意見箱(レインボーボックス)を設置し、子どもがいつでも自由に苦情や要望を表明できるようにしています。寄せられた意見は職員会議で検討し、実現可能なものは積極的に支援場面に反映しています。なお、寄せられる苦情・要望の中には、学園の本旨である「枠のある規則正しい生活」になじまないものもありますが、子どもの意見を真摯に受け止め、何故認められないのかを丁寧に示して、口頭説明や掲示による回答を行っています。このように、子どもの意志を尊重し理解と同意を大切にした関わりを通じて、子どもが自尊心を回復し、課題や目標に前向きに取り組めるよう配慮して対応を行っています。

【2、子どもの主体性を尊重し、課題達成に向けた自主性を引き出す取り組み】
学園では、子どもの主体性を尊重し、自主性を引き出すための様々な取り組みに力を入れています。入所時には必ず「入所式」を行い、保護者や児童相談所等の関係機関を招いて、子ども自らが施設生活の目標と課題を発表する機会を設けています。また、児童自立支援計画書の策定に先立ち、家庭支援専門相談員や心理職員、寮担当職員らのサポートを受けながら、子ども自身が「おれの自立計画」を作成し、入所経緯や自身の課題等を整理して改善計画を立てる仕組みとなっています。「おれの自立計画」の内容は、保護者や児童相談所、前籍の小中学校の教員等を招いて子ども自身が発表し決意表明を行うようにするなど、子どもの自覚と主体性を醸成出来るようにしています。児童自立支援計画書は「おれの自立計画」の内容を反映して策定されており、本人の意向を踏まえた内容となっています。このように、子どもの意向を尊重しながら自主性を引き出し、自ら課題達成に向けた自覚を促す取り組みは、高く評価できるものと考えます。

【3、分校との協働・連携に基づく学習支援】
学園では、設立後早期から教員による学科指導を実施して来た経緯がありますが、平成15年から大磯町立国府小・中学校の生沢分校を併設し、学校教育にさらに力を入れています。授業には各寮の支援職員も同席し、子どもの変化に応じて個別対応を行うなど、教職員と連携して支援を行っています。進路選択にあたっても、児童相談所や保護者の意向を確認した上で寮職員と分校の教職員が支援方針を協議するほか、進学や就職に必要な情報提供を実施して、子どもが適切に進路選択の自己決定が可能となるよう、配慮して対応を行っています。
また、子どもの情報共有については、毎日開催の「朝の連絡会議」に各寮の職員や分校の教頭、看護師・栄養士らが一同に会して報告と意見交換を行い、タイムリーな情報共有に努めているほか、分校の教職員が始業前に毎日各寮へ赴き、前日の夜から朝にかけての子どもの状況を聴取して分校での対応に活かすなど、生活支援と連動した一貫性のある対応を行っています。子どもの支援内容についても、各種会議などで寮担当職員と分校の教職員が合同で検討・協議を行っています。精神科治療が必要な子どもに対しては、精神科医を交えたコンサルテーションに寮職員と分校職員が同席して、子どもの課題と対応を共有するなど、職員間での認識共有と連携に基づく支援を実践しています。

≪独自に取り組んでいる点≫
【1、「家族交流プログラム」と「家族宿泊棟」を活用した取り組み】
現在学園では、家庭復帰・家族再統合に向けた家族間の関係調整の支援として、「家族交流プログラム」を実施しています。同プログラムは、家庭支援専門相談員を中心に、心理職員や寮の支援職員と協働して計画的な実施を検討しているほか、児童自立支援計画書にも内容を盛り込み、進捗状況の定期的な確認と評価を行っています。
また、家庭復帰に向け面会や一時帰宅・外泊など家族交流を段階的に実施するほか、自宅外泊を実施しない場合でも、家族宿泊棟(いちょう寮)を活用して日帰りや宿泊が出来るようにするなど、子どもと家族が一緒に過ごせる環境を提供しています。家族宿泊棟は浴室やトイレ、キッチンのほかリビングスペースがあり、家族同士の談話や食事作りなどを通じて家庭の雰囲気で自由に過ごすことが出来るようにしています。実施後は家庭支援専門相談員や心理職員、寮の担当職員を交えて親子で振り返りを行い、課題を言葉にして表すことで的確な理解が得られるようサポートするとともに、自分たちで課題解決出来るよう支援しています。家族宿泊棟を活用した支援は、入所中から家庭に近い距離感での家族交流を再現できるほか、家庭とは異なる環境で子ども・保護者の思いや本音を引き出し、良好な関係作りに作用する効果も確認されており、平成26 年度は12月現在で約30件の実践事例が報告されています。このような「家族交流プログラム」による支援は、当学園の独自性として大いに評価できるものと考えます。

≪今後の工夫や改善が期待される点≫
【1、子どもの特性に配慮した、更なる情報の共有化と連携を】
現在学園では、学園全体で適切な支援のあり方を協議するとともに、ヒヤリハット事例の収集・分析を行い、事故防止と支援の質向上に向けた取り組みを行っていますが、ヒヤリハット報告では、子どもの不適応や逸脱行為に関する事例に加え、服薬漏れなど服薬支援に関する事例が散見されています。また、夜間帯の発生事例を中心に、子どもの軽微な体調不良やケガなどの情報が、職員間で十分伝達されていない事例も確認されています。服薬に関しては、子どもの精神的安定を図り逸脱行動を防止する観点から、安全で漏れのない確実な服薬支援が望まれます。さらに、緊急性の低い軽微な体調不良やケガであっても、早期の情報共有や、より丁寧な対応がスムーズな回復や事故防止に直結し、子どもの自尊心を高め、心理的な安心感と職員への信頼感にもつながると考えられます。そのほか、発達障がいなど配慮を要する子どもに対しても、その特性を職員全員が共有し、一貫性のある支援が求められます。学園では様々な場面で情報共有化に向けた取り組みを行っていますが、今後さらなる確実な情報共有と連携体制構築に向けたさらなる取り組みに期待します。

【2、個々の「コミュニケーション力」を高めるための取り組みを】
学園では、子どもの主体性や権利を尊重し、個別性に配慮した支援の実践に努めていますが、障がいや外国籍など、言語やコミュニケーションの問題から、人との距離感が上手く取れずにトラブルに発展してしまうケースなど、他者との適切な関係性の構築や対人交流に課題を持つ子どもも増えて来ています。また、表面的には発見されにくい潜在的ないじめ、子ども間の主従的な力関係や、子ども自身がそれを打ち明けられずにいる状況もあるようです。子どものヒアリングにおいても、いじめに関する意見や子ども同士の人間関係に対する不安の声が聞かれました。
学園では既に「家族交流プログラム」において、課題を言葉にして整理する取り組みも行われていますが、今後はコミュニケーションに関する研修機会や、子ども同士で自分の体験や思いを率直に話し合う機会を設けるなど、職員・子どものコミュニケーション力の向上を図るための取り組みが期待されます。また、子どもの潜在的な意見を積極的に聴取するとともに、子どもが積極的に意見を表明したり、悩みを打ち明けることが出来るような関係性を構築するためのさらなる体制づくりにも大いに期待します。
【5】第三者評価結果に
対する施設のコメント
このたびの外部機関による第三者評価結果報告は、社会的養護の中でも特徴のある児童自立支援施設に対して、非常に丁寧で細やかな点まで把握・分析された内容でした。
過去2年間は施設内で自己評価を実施し、その中で課題となる点を次年度の事業運営の重点項目として取り組んできた経緯があります。
今年度第三者評価を受審したことにより、これまでの取り組みの再評価や自己評価では確認できなかった新たな視点における改善点が明確になりました。
この評価結果を真摯に受け止め、当園の現状における評価点(強み)や・改善点(弱み)について、我々職員一人ひとりが再認識するとともに、今後の園運営で活かしていくことにより、入所している児童にとって家族や地域とともに自立した生活が営めるような支援に結びつけていきたいと思います。
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